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上原輝男記念会 上原先生著書からの語録

「上原輝男記念会 上原先生語録集」では元玉川大学教授、上原輝男(文学博士 専攻 心意伝承学)の語録を紹介しています。 非常に多岐に渡っていますが、先生が生涯をかけて探求された、この風土、歴史、文化に根付いた<日本人>ということですべては繋がっています。 多様な価値観によってふだんの生活も国際社会での関りも難しさをます現代社会において、先生の語録は大きなヒントになると考えています。

「対談 上原輝男 × 金城哲夫(ウルトラマン作者)④ 「新しいタイプのものの捉え方が生まれつつある」

伝えたいテーマに対しての「描き方」「場面後世の仕方」というのは、そのまま「教育目標」に対しての「授業構成」「日々の積み重ね方」と置き換えて読んでみてください。

そうすると、この部分も昨日と同様に作家の立場の話であっても、教育(授業)の基本そのものと思います。
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上原
 ・・・・簡単に言うと、子どもに桃太郎の本を見せるときわめて初歩的な段階では一場面一場面としてしかとれないわけですよ、「ももから生まれた……」とね。それが、どんどん大きくなるのが次に出てくる。ところが、いま、要求されていることは、場面ごとにパンチがきいていて強烈でなくてはならない。と言うことは、次の場面と切り離されていることが、子どもに受けがいいということなんでしょう。全体の中の部分、部分と集合としての全体を子どもは、どこかで習得するわけでしょう。その関係のしあいを、いまは、問題としている。そうなると、その辺に秘密がある。

 ・・・それは、私流に言えば、二つの問題があって、継続型の方をとるのと、意外性の方をとるのとある。

 しかし継続を拒否する型をとるものも、拒否されながら、どこかで完結されなければならない。そんな宿命を持っているのですよ。テレビにしたって漫画にしたって、完結はしなければならないんだから。

 形式的に言うと、昔よく言われた起承転結ね。それは、もはや、子どもにとってだめなものか。そして金城さんは、新しい作品を作るとき。その形ではなく、別な新しい場面のっかまえ方、たとえば、部分と全体との関係のしかたを、起承転結ではない新しいバターンを考えつつあるんではないかというふうに、金城さんあたりは考えているのではないか。
 この点をいま少し知りたい気がするんですよ。

(略)

 私は浸画家の才能と言うのはテーマなり、内容的なものをどう配分するかというのではなく、新しい形式を見つけることだと思う。さっき言った起承転結とはちがった、転々承々か何か知らないけれど、何か他のパターンを見つけることであり、そうしたときにこそ内容が盛り込めたというのだと思う。それを期待したいんです。

 テンポが早くパンチがきくのを子どもが好むというのは、何かものの見方の一つの型をそこで習得したことだと僕は思っている。いままでストーリー性しかなかったのが、別の見方ができはじめたと考えたいんだ。だから、次の手がうてるのであれば、漫画やパンチのきいたものを与えるのも教育的に見て決してかまわないと思う。人間の新しいものの見方ということにおいてね………

 この雑誌を始めたのもそのような考え方があったからなのです。空間とか時間というんだって、これは人間がつかまえたわれわれの世界の構造を、時間空間というとらえ方をどこかで覚えてきたわけでしょう。

 だから、この時間空間を更に寸断するとか、あるいは、新しく組みたてるという方法を、われわれ新しい人間はつかまえていかなくてはならない。だから、もはや、物語内容にヒューマニズムがあるとか主題がどうであるかという問題は、陳腐でしかない。むしろ、それは、非教育的な内容しかないというようなこと問題でないと思う。もっとたいせっなものがあると思う。

 たとえば、子どもに修身の教科書の内容をどんどん入れれば子どもは、すばらしくなるかというと、決してなりはしない。それよりも、ものの見方という新しいパターンを創造していくことのほうが、新しい人間を作りあげる上でたいせつなのではないだろうか、

 ・・・・たとえば、九時ちょうどに人間が殺されるというドラマがあるとする。あと十分ある。しかしテレビでは時間制約のために場面転換が行なわれている。そのようなときに、どんなテクニックを使うかが聞きたいのです。

 そのテクニックを示すということは、そのようなものの見方を指導していることと同じであると考えるのです。それが子どもの能力とかけ離れていれば、子どもはそこに不可解を感ずる。それは絶えず苦方していることでしょう。

金城
 そうですね。ただ僕はそのように理論付けで行なっているのではなく、勘でやる。だから、どこかでそれをやっているとは思うのですが、それを意図しているわけではない。あんまり。

上原
 そう。子どもが喜べばいい………それは、わかる。われわれの知りたいのは、子どもが喜んだのは、作者が何をやり、どんな仕組をしたから喜んだのか、だとか、子どもが作りあげようとする構造と作者が考えていた作品の構造とがどこかでピタリとあったんだ、そんなふうに思い、その分析をやりたいのです。また、しなけれれぱならない仕事だと思う。

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この対談からずっと後、先生の主宰していた児童の言語生態研究会の雑誌15号のテーマは「子どもにとっての時間と空間」でした。
https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/journals/JidouGengoSeitaiKenkyu/i/15

それがどうして教育の根本問題となりうるのか、という先生の言葉を個人ブログの方でもとりあげています。

上原輝男語録にみる古来日本人の感覚ー14 「生き方」の指導


「起承転結」というのは物語展開の基本形のひとつですが、これは中国の漢詩の型ですよね。
日本の芸能だと能楽の「序破急」という型があります。
教師が授業の展開を考えるときにもどちらかを基本形として考えていらっしゃると思います。

その型のスタイルをどうするのが効果的なのか、と考えることが、まずこの対談での内容と重なる部分。



でも、「部分と全体」という視点からは、もっと教育の根源に関わることがつながっています。

時折行われるテストで子ども達が点数をとれる、それで先生や親にほめられる、友達に対して優越感を得られる、という構図は、そのまま教師とか、学校とか、市町村レベルでも変わらないですよね。全国都道府県の中で学力テストの平均点がトップになったとか、そういうことで一喜一憂していますから。

その時その時に評価されたことで喜んだり悲しんだりするのは、人間の本性でもあるのでしょう。
だからそのこと自体はきっとずっとこのままですよね。

ただ、問題にしなければならないのは、それが「子供の成長」「みんなにとって生き生きと暮らせる社会の形成」という大きな流れと、あまりに解離・分断されてしまっているということです。本末転倒になってしまっているように思うんです。

家庭教師をしていて、特に中学校・高等学校の中間テスト・期末テストで多かったのが、ふだん使っている問題集やプリントと、ほとんど同じ問題を出題することが非常に多かったこと。極端な場合は、数学で教科書の章末問題を完全にそのまま出題する中学3年生の先生がいらしたこと。その学校の生徒は解法の途中を書く欄のない解答欄に、暗記していた数字などだけを書けばいい。だから学年の平均点は95点前後でした。でも、学力テストや模擬試験だと県の平均をうんと下回る・・・当然ですよね。

まあ、それは極端な例ですが、あれほど入試ではカンニングや問題漏洩がニュースとなり批判されるのに、どうしてこういうことは堂々と行われているのだろうと不思議に思います。

そりゃ「普段から授業をきちんと受けて、課題をこなしている生徒がむくわれるように」という配慮からのことだという意図も分かりますが、それによって、解き方を覚えている問題ならニッコリ笑って解けるけど、ちょっとでも変えられたら全く歯がたたない・・・というのでは、本当に教育といえるのか???

確かに、点数ばかりで先生や学校を評価し、厳しく注文をすけてくる上かや世間からの圧力は、尋常でない場合もあります。そういう地域などの先生方は、自分達の身を守る為に、そうするしかないのでしょう。

でも、そうすることによって、肝心の子ども達の生きる力は確実に未発達になりますよね。
場面場面のパンチのある描写しかない作品が、一時的に人気作になってもすぐに飽きられて忘れ去られるのと同じです。
一発芸で大流行した芸人さんで、あっというまに消えていった人達などもそうですよね。

そのあたりの問題が、今回載せた先生の最後の言葉にあらわれていると思います。


上原
 そう。子どもが喜べばいい………それは、わかる。われわれの知りたいのは、子どもが喜んだのは、作者が何をやり、どんな仕組をしたから喜んだのか、だとか、子どもが作りあげようとする構造と作者が考えていた作品の構造とがどこかでピタリとあったんだ、そんなふうに思い、その分析をやりたいのです。また、しなけれれぱならない仕事だと思う。
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プロフィール

HN:
上原輝男記念会
性別:
非公開
自己紹介:
本会は、上原輝男の功績を顕彰し、民俗学・国語教育学の発展に寄与する研究と交流を目的として設立されました。

ここでは上原先生が探求された事柄を、広く一般の方々にも知って頂くために、先生のあらゆる分野の語録を紹介しています。

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