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上原輝男記念会 上原先生著書からの語録

「上原輝男記念会 上原先生語録集」では元玉川大学教授、上原輝男(文学博士 専攻 心意伝承学)の語録を紹介しています。 非常に多岐に渡っていますが、先生が生涯をかけて探求された、この風土、歴史、文化に根付いた<日本人>ということですべては繋がっています。 多様な価値観によってふだんの生活も国際社会での関りも難しさをます現代社会において、先生の語録は大きなヒントになると考えています。

「小学校の国語かくあるべき -現代国語教育の盲点と批判-」あとがき全文 (ツイッター上原語録009補足)

昭和43年初版、上原先生が最初に出版されたものだと思います。(40歳代になりたての頃)

  あとがき
 ずいぶん、思い切ったことを書かせてもらった。まだ熟し切らぬ論考までも書き立てた。批難、反撃も充分に覚悟している。図々しいからでも喧嘩好きだからでもない。いま必要なのは、国語教育についての論争だとつくづく思うからである。だが、論争のためにする人さわがせをやったとは思っていない。

 雨が水面を叩く場合も、淡雪が静かに水面に融ける時も、じっとわれわれは水面に目を注いで興味に思うことがあるのに、どうして、子どもの頭の中に浸透して行くことばの雨脚を見ようとしないのだろう。ある時期をおかなければ、その水嵩の増したことはわからない代物かもしれない。でも、それでは、われわれの仕事が勤まっているとは思われないために。この書を書いた。義務感というよりも、小さい者が生きて行く愛着のために書き綴った。

 だから、この書は、小学校国語教育の解き明かしというよりも、その対象をどこに求めるかの方に向かっている。それも解説ふうに述べるほど乾いたものとはなっていないことも知っている。熱意で書かれた文章が読者を疲れさせることも知っている。しかし、対象が生きているのである。そして、いまもなおことばに反応し続け、成長しつつある。その反応が、その子のものであり、その子のことぱの経歴なのだと思う。

 人間だれしも、この自分のことばの経歴上の失敗譚や疑問の一つや二つは持っているし、どういうものか、この一つや二つを長い問、誰にも言わず、子どもは胸に秘め続ける。きっと細かく分析が可能であったら、一つや二つと言わず、その連続であり、みごとにその子その子なりの経歴や累積の仕方を呈しているにちがいない。

 …既に書いたが、われわれはそのために顕微鏡が使えるわけでもない。聴診器を持つ医者が羨ましい時もある。電子計算機が使えて、教室にそれが入る時はいつであろうか。などというより、われわれおとながこのさわがしい世の騒音からふと耳に蓋して、静かに自分と対話するとき、生きて行くわが身と、自分のことばの成長を思うことがある。そしていままた小さき者が、いじらしくも綴りつつある、おのれのことばの小径の前途を思い遣る人間同士の直観を、わたしは尊重したい。そしてそれこそが、国語教育の基底に据えられるものであるし、それをもう一度、しっかり掴み直してみたいと思ったのである。
 昭和四十三年春
                                   著 者

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上原輝男記念会
性別:
非公開
自己紹介:
本会は、上原輝男の功績を顕彰し、民俗学・国語教育学の発展に寄与する研究と交流を目的として設立されました。

ここでは上原先生が探求された事柄を、広く一般の方々にも知って頂くために、先生のあらゆる分野の語録を紹介しています。

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